とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「あ……はい。夢も見ませんでした」
「それならよかった。野々宮さん、寝顔おさなくて可愛いのね。仕事もできるし普段大人びてるから忘れてたけど……まだまだ大学卒業したばかりなんだって思い出したわ」
ふふ、と笑いながら言われて、恥ずかしくなる。
寝顔がどんなものだったのかはわからないけれど、家族以外の前で寝ちゃうなんて修学旅行とか以外では初めてだった。
しかも、寝入ってしまってずっとおんぶしてくれてたみたいだし……本当、申し訳ない。
「とりあえず、ここが六時までだから、それまでに起きなかったら可哀想だけど起こそうって話してたの」
「六時……あの、今は……?」
いったい、どれだけ眠っていたのだろう。
そう思い聞くと、樋口さんは腕時計を確認して「五時半すぎたところね」と答えた。
五時半……。
居酒屋での記憶が曖昧だからなんとも言えないけど、恐らく二十三時頃には眠っていたんだと思う。
っていうことは、六時間半も寝ていたってことか……と考えて、驚く。
ここ二ヶ月間でそんなに一気に眠れたことはなかったから。
「あの、木崎さん……それに、樋口さんも。迷惑をかけてしまって本当にすみませんでした。こんなふうに、朝まで付き合わせてしまって……」
一番下っ端の私が飲み会で寝てしまって先輩に迷惑をかけてしまうなんて、社会人失格だ。
そう思い、頭を下げると、隣で木崎さんが笑う。
「いいって、気にすんなよ。むしろ、話聞き出したくせになにもしてやれなくてもやもやしてたからさ、せめて不眠が少しでも解消できたならよかったよ。
なんでもいいから力になれないかなーって、樋口とも話してたんだ」