とっくに恋だった―壁越しの片想い―
代わりに立ちあがった木崎さんは、数歩歩いたところで「あああっ! やばいこれ、ダメだ、時間差かよ……っ」と、悲痛の声をあげ、床に転がり出す。
いったいどうしたんだと思い身を乗り出すと、木崎さんは太腿を抱えた状態で痛みからか顔をしかめていた。
「ほら……あの、野々宮をずっと膝枕してたから……それで、痺れが今頃……っ」
途切れ途切れの説明を聞き、申し訳なくなっている私の向かいで、樋口さんが笑う。
「楽しそうだからつついていい?」
「やだよっ! あー、もう、本当……これ、やばい」
つついて遊ぼうとする樋口さんの手を叩き落としながら痛がる木崎さんを、しばらくはただ見ていたけれど。
そのうちにおもしろくなってきてしまい、思わず吹き出す。
「あ、野々宮、笑うな……っ! 笑うと体力が削られる……ちょ、樋口、本当にやめて! ごめんって! 胸のサイズばらしたことなら謝るから……!」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
そのあとも続いた攻防戦。
笑いながら、先輩の優しさにこっそり涙が浮かんでいた。