とっくに恋だった―壁越しの片想い―



朝帰りなんて、生まれて初めてだった。
ついでに言えば、こんな早い時間帯の電車に乗ったのも初めてだ。

土曜日の朝なのに、六時二十分発の電車にもポツポツと人は乗っていて、いろんな生活スタイルの人がいるんだなぁと再確認する。

息が白く色づきそうな、ぴりっとした冬の朝の空気が気持ちいい。

昨日までと比べれば、かなりまとまった睡眠をとれたおかげか、頭がすっきりとしていた。

けれど、傍から見たらまだ顔色は白いらしく、心配してくれた木崎さんと樋口さんがアパートまで送ってくれると言いだし。
申し訳なく思いながらアパートの最寄りの駅で三人して電車を降りた。

オレンジと黄色の間の色をした朝日が、夜の色を空から追い出し、明るく染めていく。

残った雲がオレンジ色に染まるのが綺麗だなぁと思いながら眺めた。

「人生のなかで、こんなに誰かに迷惑をかけたのは初めてかもしれません……」

こんなに空が綺麗だからか、感傷的になってしまう。
自分が情けなくなりながらそう呟くと、樋口さんが笑う。

「野々宮さんの初体験もらっちゃった」
「野々宮……おまえ、こんなていどの迷惑が初めてとか……なんか、自分の情けなさに泣けてくる」

「ああ、四月の飲み会のあと、木崎さんが樋口さんにかけた迷惑よりはマシかもしれませんね」
「そういうこと言わないで。樋口がますます俺に冷たくなる……」

しょんぼりした木崎さんにくすっと笑っていると、樋口さんが安心したような眼差しで私を見ていることに気付く。

きっと、いろいろと心配してくれているんだろうと思い、なんとなくバツが悪く感じながらも樋口さんを見た。


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