とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「お願いは、お願いです。平沢さん、さっき、お願いしてたじゃないですか。あれを、私もします」
説明すると、ようやくどういう意味かに気付いたらしい。
でも、気付いた上で「お願いって……え?」と戸惑った様子で聞いてくるから、じれったくなる。
ようやく落ち着いた呼吸。
すぅ、と空気を吸い込んでから、平沢さんを見上げて一気に吐き出す。
「いいじゃないですか! 平沢さんだって木崎さんにあんなこと言ったんだからっ」
「いや、言ったけどさ……でも、俺は……」
まだ、なにかをもごもご言っている平沢さんに怒鳴るようにして言った。
「もう、なんなんですか! 私、あんな可愛くない態度ばっかで、挙句、無視して、その上、心配してくれたのに追い出すようなヤツなのに……。
なのに、なんであんな風に……心配してくれるの……」
じょじょに小さくなっていった声が、最後は涙声に変わる。
カラオケを出たときから、瞳の奥に溜まっていた涙はついに溢れ、目尻から零れ落ちる。
それに気づき、隠すように俯いた。
……最悪だ。
泣くつもりなんてなかった。
ただ、鳥山さんに言いたかっただけなのに。
いい人だから、傷つけないでって……自分のこと後回しにしちゃう人だから、鳥山さんだけは平沢さんを一番に考えてあげて欲しいって……。
ちょっとうっとうしいって思うくらいに世話焼きだし心配症だけど、我慢してあげてって。
幸せにしてあげてって……。
そう、お願いしたかっただけなのに、最悪だ。
自分が情けなくなってボタボタと涙をこぼしていると、俯きぼやけた視界のなかに、平沢さんのスニーカーが入り込んでくる。
それに驚き、泣き顔にも関わらず思わず顔を上げると……見たこともないくらいに優しく微笑む平沢さんが私を見ていた。