とっくに恋だった―壁越しの片想い―
伸びてきた指先が、瞳から落ちる涙を拭う。
その指先のあたたかさに、懐かしさやら愛しさが一緒くたに湧きあがる。
涙でゆらゆらと揺れる視線の先で、平沢さんがじっと私を見て微笑んだまま言う。
「なんでって。だって、好きだから」
「なん、で……」
「好きなヤツの幸せ願わない男なんていないだろ」
当たり前でしょ、とでも言いたそうな声に「後輩、だから……?」と聞き返すと、笑われ、「違うよ」と首を振られる。
わけがわからない。
平沢さんは、私を好きで、でも、後輩だから幸せになってほしいわけじゃない……。
涙でグズグズになった頭のなかでは、うまく整理できない。
ただ「なんで」を繰り返していると、平沢さんがふっと笑みをもらし、息をつく。
まるで、観念したようにも見える、困ったような笑みに、なぜかドキリと胸が跳ねた。
「ごめん。俺も最初は可愛い後輩の面倒見てるつもりだったんだけど……」
そう話し出した平沢さんは「どっから変わったんだろうな……」と自分に問い掛けるようにして言い、続ける。
「いつの間にか、華乃ちゃんの先輩に嫉妬して、触ってんじゃねぇって掴みかかりたくなるくらいになってた。
土田にいたっては、そのまま行動に移してたし。あのあとも俺の部屋で飲むって話になったけど、華乃ちゃんにまたちょっかい出すんじゃないかって心配して結局断ったし」
自嘲するように笑う平沢さんを、ただ見つめる。
今、言われたことを必死で考えるけど……やっぱり、きちんと結びつかない。
だって。
「だって、鳥山さんは……?」
そうだ。
平沢さんには、鳥山さんがいる。