とっくに恋だった―壁越しの片想い―
平沢さんは浮気するような人じゃない。
鳥山さんがいるのに、私に好意を見せるような人じゃない。
だからこそ、言われた言葉がうまく結びつかない。
私が都合よく捕えているだけなのかもしれないと思い聞くと、平沢さんが微笑んだまま、わずかに眉を寄せ「別れた」と答えが。
「別れたって……」
「まぁ、最初っから流れ……ってわけでもないけど、一方的に押されて始まったようなもんだったんだ。
たぶん……そこで気づくべきだった」
そう言って、平沢さんが目を伏せる。
「華乃ちゃんに、自立したいから飯一緒に食うのとかやめようって言われて……へこみながらも、でも、構いすぎたしなぁって思ってたら、鳥山さんに誘われて。
鳥山さんとする仕事の話は楽しいし、あまりに積極的にくるから、まぁいっかって」
「気づくべきだったって……なににですか?」
そんな、押し切られて付き合い出すなんてどうなんだろうとも思ったものの、そちらのほうが気になって聞く。
平沢さんは、視線を伏せたまま答えた。
「恋愛に逃げてる時点で、華乃ちゃんへの気持ちもそうだったんだって気づくべきだった。
ひどい話だけどさ、華乃ちゃんがいなくなってできた隙間を、鳥山さんで補おうとしたんだよ。
鳥山さんが向けてくれる、恋愛感情で。でもそれって、そういうことだろ」
言おうとしている意味に気付き、あ……と思う。
平沢さんは、開いた隙間を塞ごうと鳥山さんを選んだ。
隙間を、もとあったモノと同じモノで塞ごうとして。
鳥山さんがくれるのは、恋愛感情だ。ということは……もともとその隙間にあったものは、恋愛感情ってことになる。
つまり、平沢さんが私に向けていてくれた想いは――。
行きついた答えに驚き、なにかを考えるよりもさきに、そんなわけないと否定していた。
だって、そんなの、嘘だ。
そんな、私に都合よくいくわけがない。……嘘だ。