とっくに恋だった―壁越しの片想い―
本当にその答えが分かっていないみたいな、そんな声が、とんちんかんなことを聞くから、思わず呆れて笑いそうになる。
この人は本当に、もっと自分がモテるんだって自覚したほうがいい。
平沢さんの手を、頬からはがす。
それをギュッと握りしめてから目を合わせ、ゆっくりと口を開いた。
「私は……」と、言うと、その声が涙のせいか震えそうなことに気付いたけれど、そのまま続ける。
「私は……好きでもない人を、こんな風に必死に追いかけてきたりしないです」
平沢さんの顔に、驚きが広がっていくのを見つめながら言う。
「好きでもない人の幸せを願って距離置いたりもしないし、手だって、握らない。
悩んで夜、眠れなくなったりもしないし、ご飯食べられなくなったりもしない」
最後に「好きになって欲しいだなんて……思ったり、しない」と言った声は、消え入りそうになってしまった。
……そう。
好きになってほしかった。
特別になりたかった。
きっと、自覚するよりもずっと前から――。
平沢さんをじっと見つめる。
そして、すぅっと空気を吸い込んでから、はっきりと言った。
「とっくに、好きです。もちろん、恋愛として」
初めての告白だった。
ずっと、心のなかで出口を求め暴れていた気持ちを声にできたら、解放できたらどんなに楽だろうと思っていたけれど……。
楽になるとかそんなものよりも、性格上、素直に気持ちを晒したことへの恥ずかしさが勝る。
嬉しさはもちろんある。
でも、言葉にした途端、土曜日の朝からアパートの通路でなにやってるんだろうだとか、そんな冷静な考えが浮かんできて、感動を止めた。