とっくに恋だった―壁越しの片想い―
ついでに、ホッとしたからか眠気やら空腹やら、人間に備わっている欲求のいろんなものが襲ってくる。
そういえば、昨日の飲み会でもそんなに量は食べられなかった。
さっき、コンビニで買ったサンドイッチでも部屋に戻って食べて……そして、寝ようと思う。
たぶん……今ならこの部屋だって眠れるはずだ。
ゲンキンすぎる素直な身体に、やっぱり平沢さんがいないとダメなのか……と思わず笑いそうになったとき。
突然、繋いだままだった手を引かれ、抱き寄せられる。
Tシャツ越しに平沢さんの胸におでこがぶつかり、ゴツッと音がする。
だいぶ勢いよく抱き寄せられ驚いていると、背中に回された腕にぎゅううっと苦しいくらいに抱き締められて、さらに驚く。
ストーカー事件のときにも抱き締められたけれど……それよりも、力が強くて、戸惑う。
「あの……」と声をかけると、平沢さんはギュッと抱き締めたまま「うん……」と返事とは言えない言葉を返した。
「あの、平沢さん?」
「……うん」
「うんじゃなくて。あの、ここ外ですし。通りかかる人もいますし」
「うん」
「それに……私、お腹空いてたり、眠かったりで忙しいんですけど」
「うん。ごめん……」
いろいろ言いながらも、私が嫌がってるわけではないってわかってるんだろう。
私の照れ隠しに、平沢さんはごめんって謝りながら抱き締めるから……私も諦めて、そっと平沢さんの背中に手を回す。
大きい身体だった。
大きくて、あたたかくて……どこまでも、優しい。
ああもう、本当に好きだなぁ……と、言葉にはできないようなことを思い、目を閉じる。
胸がドキドキとうるさいけれど、平沢さんのも同じだから安心する。
「好きだ」と小さく呟くように言われ……閉じた目の奥が熱くなる。
そのまま抱き締めていると「華乃ちゃん」と呼ばれるから、どうしたんだろうと思い、続く言葉を待っていると。
「キスしていい?」
そんなことを聞かれた。
戸惑う暇もなく、そっと離れた平沢さんが、少しかがんで顔を覗き込むようにして見てくる。