とっくに恋だった―壁越しの片想い―

「華乃ちゃん、えのき好きだよね」
「好きですね。すき焼きとかでも、えのきが一番好きですし」
「えー、そこは肉だろ」

「お肉も好きですけど、食べられる量って限られるじゃないですか。そのてん、えのきなら延々と食べられる感じがしません?」

「華乃ちゃんの延々って、ひと袋くらい?」

馬鹿にしたように笑う平沢さんに、むぅっと口を尖らせるも、言われたことはそこまで外れてもいないため、反論はしないで、テーブルの上の缶チューハイに手を伸ばした。

こうして、夕飯をご馳走になることが多いから、せめてとお酒は私が持ってくるようにしている。
平沢さん用のビールと、自分用のチューハイやらカクテルやらの甘いお酒を、だいたい、二対一の割合で買ってくるのが、すっかり定着していた。

もちろん、外に食べにでたり、普通にブラブラしに行くこともあるけれど、私も、そして意外にも平沢さんもそんなにアウトドア派ではないから、休みの日でもこうして部屋で過ごすことが多い。

……そう。
ふたりきりで部屋にいれば、そういう雰囲気になることも、もちろんあるわけで――。

「あ、あの……」
「……ん?」

夕食を終えて少ししたころ。
並んでテレビを見ていると、肩に腕を回された。

肩を抱き寄せられ身じろぐと、平沢さんは優しい声と表情で答えてくれた。
けれど、行為自体は止めてくれる気はないらしい。

抵抗する間もなく、話しかけるために開けた唇を塞がれ「んむ……っ」と、声がもれる。


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