とっくに恋だった―壁越しの片想い―


「ん……っ」

すぐに入り込んできた舌に、肩を強張らせて目をギュッとつむり、眉を寄せた。

合わさった舌が咥内をゆっくりと味わうように動き、頬の内側や舌の横、上顎を撫でていく。
交わる吐息に意識がとろんと溶けだす。

こういうキスは初めてじゃない。

付き合うようになって、一週間くらいしたころにされたのが初めてで、それからは部屋にくるたびにするようになった。

付き合い始めてから二ヶ月が経つし、もうそれなりに回数だってしているっていうのに……。
なかなか、慣れない。

先輩後輩の関係が長すぎたからか、平沢さんと恋人らしい行為をすることに違和感がある……といえば、そういうことなのかもしれない。

もちろん、嫌なわけではないのだけど……慣れない、の一言に限る。
ドキドキしてしまって、どうしたらいいのかわからなくなる。

それでも、もっと……と求めてしまうのだから、本能というものはあさましい。
でも、だって――。

「あ……」

最後、私の唇をペロッと舐めた平沢さんがゆっくりと離れる。
はぁ、と息をもらすと「華乃ちゃん、えろい」なんて、からかうような声が降ってくるから、ドン、と平沢さんの肩口を叩いてから、その胸におでこをくっつけた。

大人のキスは嫌いじゃないけど、終わったあとの雰囲気は苦手だ。
どういう顔をすればいいのかわからないし、なにより恥ずかしすぎて居たたまれない。

ドキドキうるさい胸と、赤く染まっているであろう顔を隠すように平沢さんの肩口に顔を埋めていると、背中に回った腕にギュッと抱き締められる。

服越しに感じる、平沢さんの手のひらの熱に期待があおられる。


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