とっくに恋だった―壁越しの片想い―
この先を想像して高鳴る心臓に耐えながら、私もただ黙り身をゆだねていると……「華乃ちゃん」と名前を呼ばれた。
ついにきたか、と思い、緊張しながらも頷く覚悟をして続く言葉を待っていると……。
「明日って予定ある? 俺、珍しく土曜休みだから、華乃ちゃんが暇ならどこか行こうか」
予想とは違う提案をされ、スッと緊張が解けていった。
代わりに、怒りにも似た感情がむくむくと大きく膨れだす。
別に平沢さんが悪いんじゃない。
キスも満足にできない私相手にそれ以上のことを求めないのは、優しさの一種ではあるのかもしれない。
でも……そういう雰囲気は出すくせに、いつもこんな肩すかしばかりされたら、八つ当たりだと分かっていても頭にもくる。
頑張って胸育している自分が。
小さな胸を気にしながらもキス以上のことを受け入れたいと覚悟を決めている自分が、バカみたいだ。
「明日は先輩と予定があるので」
平沢さんの腕の中から抜け出し、すっと立ち上がり、そのまま玄関に向かう。
うしろからは、「え、華乃ちゃん、もう帰るの?!」と焦ったような声が追ってきたけれど。
「眠くなっちゃったのでおやすみなさい」
そう、一気に言ってからバタンとドアを閉めた。
この二ヶ月。平沢さんは私に手を出してこない。
それが、気に入らなかった。