とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「二ヶ月か……まぁ、そろそろなにかあってもいい頃って言えばそうかもね。もちろん、個人差はあるけど」
翌日土曜日。
『先輩と予定があるので』
平沢さんについた嘘を本当にしようとしたのは、罪悪感からではなく、本当に誰かに話を聞いて欲しかったからだった。
平沢さんの部屋を出てすぐにメッセージアプリで樋口さんを誘うと意外にもいい返事がきた。
しかも速攻で。
メッセージで軽く待ち合わせ場所と時間を決め、駅近くにあるお店に向かい、着いたのが、十一時半すぎ。
お店の中はお昼なのに薄暗く、席も全部が半個室状態だった。
席を区切る仕切りは一メートル半ばくらいまで高さがあり、立っても隣の席は覗き見できない造りでプライベート空間と言えるかもしれない。
照明といい席といい、雰囲気のよさに感心しながら、樋口さんの前に腰を下ろしたのが三十分前の話だ。
それから、それぞれお店のお勧めメニューであるオムライスを注文し、食べ終わったころに本題を切り出した。
急に誘った理由を。
最初、付き合って二ヶ月も経つのに足踏み状態だということを聞いて、樋口さんは驚いてはいたけれど、そのうちに「まぁでも、初めての彼氏だしねぇ」と、納得する方向に意見は変わっていた。
「個人差……。つまり、平沢さんはそういうことに奥手なタイプなんでしょうか」
好きだって想いを告げたその日にキスされたから、てっきり手は早い方かと思っていた。
でも、言われてみれば、鳥山さんにもなにもしなかったって言ってたし……そうなんだろうか。
たしかに、大事にはしそうなタイプだけど。
そう思い「まぁ……たしかに、そういえばロマンチストっぽい部分はある気がするし、そうなのかな」ともらすと、樋口さんはキョトンとしたあと、「え、ちょっと待って」と眉を寄せた。