とっくに恋だった―壁越しの片想い―


「平沢さんって、いつも大事にする優先順位が自分以外が上なんです。飲み会でもすぐ幹事とか引き受けちゃうし、たぶん、普通の会話のなかでだって、相手を優先して考えてる。自分の希望みたいなものは、いつも後回ししちゃう人なんです」

「ああ……なんか、そんな感じだったわよね。野々宮さんのこと好きなのに、木崎と付き合ってるって勘違いしても、気持ち呑み込んで頭まで下げてたし」

そう。平沢さんは自分の気持ちを我慢して、綺麗に笑顔の裏に隠せちゃうひとだ。
だから――。

「私相手には、気を使ったりして欲しくないんです。だから……たぶん、勝手だけど、関係を先に進めたいって平沢さんも思うなら、もっと強く望んで欲しかったのかもしれません」

いつもいつも、そういう雰囲気は出すのに、私がためらっているのが分かったらすぐに『あ、それより』なんて、気を使わせないように笑顔で引き下がるんじゃなくて。

もっと、私の都合なんて構っていられないくらいに気持ちを見せて欲しかったのかもしれない。

私にはわがままになって欲しかった。
仕事が大変な時期なら、『大丈夫だよ』よりも『疲れた』って言ってほしかった。

欲しいって気持ちがあるなら隠さないで欲しかった。

……と、そこまで考えて思わず笑みがもれた。
平沢さんに遠慮してほしくないと思っていたし、今でも思っている。でも同時に、私のわがままもそこに含まれていた。それに気づいて自分自身に呆れてしまった。

平沢さんにしてほしいことばかりだ。

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