とっくに恋だった―壁越しの片想い―


広がっていく沈黙がいちいち苦しさと不安を増量させていくから、ついに耐えきれなくなり視線を落とそうとしたとき、それまで固まっていた平沢さんの手が動いた。

「あー」と小さくうめくような声を出した平沢さんは、両手で目をおおい、しばらくじっとしたあとで、手をどかし私を見た。

そして、微笑まれたと思った次の瞬間。

「ひゃ……っ」

下から伸びてきた手に抱き寄せられ、おかしな声がもれた。

もともと、馬乗りになっていた状態から抱き寄せられると、上半身が完全に平沢さんの上に乗る体勢になる。

体重がかかってしまうし重たいだろうと身じろいだけれど、平沢さんの腕の拘束は固く、離してくれる様子はなかった。

抱きかかえらえた頭は平沢さんの胸の位置で、奥からは心地いいリズムが聞こえてくる。

トクトクトクトクと平沢さんを生かすそれは、私が知っている音のなかで一番大事な音だ。

騒がしい私のそれとは大違いな音に、気持ちが溢れる。
温度も鼓動も、すべてが好きで……愛しい。

自分の気持ちとは思えない熱量が、平沢さんの存在に誘われるようにこんこんと湧き出てきて戸惑っていると、そのうちに平沢さんが口を開いた。

「とりあえず、そんなこと言わせてごめん。不安にさせてたことも、気づけなくてごめん」

胸から響く声。
ずっと聞いていたい、低くて耳障りのいい声に、ゆるく首を横に振った。

謝ってほしいわけじゃない。
平沢さんが「誤解がないように言っておくけど」と前置きして話し出す。


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