とっくに恋だった―壁越しの片想い―

「俺だってしたいってずっと思ってたよ。っていうか、華乃ちゃんよりも俺のほうがその気持ちは強いから。キスだけで止めるとか、正直つらいなんてもんじゃないし。でも、華乃ちゃんが隣にいたらやっぱりキスするのは我慢できなくて自分で自分の首絞めてた」

あけすけに白状され、返す言葉に困る。

「でも、だったら……」と続けようとした声は、すぐに遮られた。

「華乃ちゃんってさ、俺のこと買いかぶってるところがあるだろ」
「え?」

思いがけないことを言われ顔をあげると、やや困ったような微笑みが私を見ていた。

「高校の頃の先輩っていう立場もあるんだろうけど、結構分厚いフィルター越しに見られてる気がするんだけど、違う?」

……たしかにそういう節はあったかもしれない。
平沢さんのことを高校の頃からずっと尊敬はしていたし、今だってしている。

そういう、憧れというフィルターはかかっていたのかも、と聞かれて初めて気づいた。

「もちろん、華乃ちゃんによく思ってもらえてるのは嬉しい。けど、きっとそのうちボロが出るし……それを考えるとね。
どこで幻滅されるかわからなくて、必要以上に物分かりのいい彼氏を演じてた。そのせいで華乃ちゃんを不安にさせてたなんて思わなかった」

一拍空けてから「ごめん」と謝られる。

私は少し呆けてから、平沢さんが言っている言葉の意味をしっかりと理解してハッとした。

そうか……。平沢さんがいつだって自分の感情を微笑みの裏に隠していたのは私のせいだったのか。

私が、平沢さんをあまりに特別に見ていたせいだったのか。

それに私がかけているフィルターは〝憧れ〟だけじゃない。もっと厚みのあるフィルターもそこに足されている。


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