とっくに恋だった―壁越しの片想い―
直後、ぐるっと身体が回り、何事かと驚いていると、見下される体勢になっていることに気づく。
頭をゆっくりと床におろされて、そこで初めて私が頭をぶつけないように手でカバーしてくれていたことを知る。
蛍光灯を背にした平沢さんが、わずかに困ったように微笑む。
「本当にいいの? もう我慢しないけど」
「え、今……?」
我慢してくれなくていい。
平沢さんのむき出しの本音が知りたくて、全部見せて欲しくて押し倒したのだから、今更だ。
けれど、これから夕飯の買い出しに行こうって話だったし、キッチンではシチューになる予定の野菜たちがコトコト煮られている。
だから、だってシチューが……と視線を動かすと、それに気づいた平沢さんが目を細める。
「タイマーかかってるし、そのうち自然に切れるから大丈夫」
前髪を、おでこを撫でるようにしてどかされる。
口の端を上げる平沢さんの色気に、分厚くてごつごつした手に、しっとりと変わった雰囲気に。
胸が一気に締め付けられた。
顔の形を確かめるみたいにゆっくりと頬にうつった手を、上からギュッと握りしめる。
「はい。……ただ、あの、私胸がとても小さ……」
後出しするのは耐えられなくて、恥ずかしく思いながらも自己申告しようとすると、平沢さんはチュッと音をさせたキスでそれを止めた。
「華乃ちゃんはもう黙って俺のすることを素直に感じててくれていればいいから」
コツンとおでこ同士がぶつかる。
平沢さんの瞳に熱が宿っていることに気づいた次の瞬間には、ふたたび唇が重なっていた。
そこからはもう、なにかを考える余裕なんてなかった。