とっくに恋だった―壁越しの片想い―


「いつもそうってわけじゃないです。だいたい、ひとり暮らしなのに平沢さんみたいに朝からちゃんと作る人なんて少ないんですよ。私が普通です」

「いや、華乃ちゃんのは普通じゃない。だって放っておけば平気で二食くらい抜くじゃん。
仕事で疲れて帰ってきたりすると、夕飯食べるのさえ面倒くさくなってそのまま寝るだろ。で、朝も面倒で、そのまま出勤パターン」

「……そういう時もありますってだけで、いつもそうじゃないですし」

「頼むからちゃんと食べて」とため息を落としながら言った平沢さんに、心の中で〝親じゃないんだから〟とツッコむ。

どうも平沢さんは私のことを大人扱いしていないというか、いつまでも先輩気取りで困る。
世話を焼いてくれるのは助かってるけど、ここまで気にかけてもらうのは忍びない。

「俺もこれから作るんだけどさ、おいでよ。一緒に食お」

こんな風に、迷惑をかけるのは申し訳ない。
平沢さんだって仕事をしてるのに。

平沢さんが勤務しているのは、大手飲料メーカーだ。

私よりも帰りが早いことが多いのは、そのぶん朝が早いからであって、残業がないだとかそういうわけじゃない。

二十四時間稼働している製造機を管理し、不具合がでたときには修理し、そこからの製造予定を組み直したり。

いつか聞かせてもらった仕事内容は、私がしているような事務とはかけ離れていて、常に現場で汗を流すようなハードなものだった。


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