とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「みじん切りくらいなら余裕です。……相手の方、綺麗でしたよね」
ザクザクと玉ねぎを切りながら言うと、平沢さんはまだ続いていた話題に驚いたみたいに笑う。
「なに、華乃ちゃん。ずいぶん興味あるね」
「私がここに越してきてから、女の人の影とかなかったの、ずっと不思議には思ってたんです。だから、なるほどって」
「なるほどって?」
「平沢さん、面食いだったんだなって」
玉ねぎを切り終わり、包丁を洗う。
それから冷蔵庫を開けてひき肉を取り出すと、炊飯器が炊き上がったことを知らせる電子音を立てた。
平沢さんが、コンロの火を止め、炊飯器を開けてご飯をかき混ぜる。
「んー……面食いってわけでもないけど。
あの人とは本当に仕事の話してるだけでそういう関係じゃないし。それより華乃ちゃんは? そういう男いないの?」
底の深い器にご飯を入れながら聞かれる。
今まであまりしてこなかった話題なだけに眉を寄せると、平沢さんは「俺だけ質問攻めはずるいでしょ」と口の端を上げて私を見た。
「質問攻めって……ただ普通に気になったこと聞いてただけじゃないですか」
「いいから答える答える」
「……別にいないです。好みとか、そういうのもよくわからないですし」
「え、そうなの? んー、まぁ、確かに華乃ちゃん、恋愛に興味とか薄そうだけど」
「私のこと好きって言ってくれる人ならいいんじゃないかなって、それくらいです」
ご飯の上にホワイトソースをかけた平沢さんからフライパンを受け取り、洗ってから、また返す。
受け取った平沢さんがそれをコンロにかけ、ひき肉と玉ねぎを炒める様子を眺めていると「好きって言ってくれたらそれでいいの?」と聞かれた。