とっくに恋だった―壁越しの片想い―
異動は九月第一週だったのにも関わらず、飲み会がその一ヶ月もあとの十月になってしまったのは、なかなか支店同士の都合が折り合わなかったせいらしい。
というのも、いつもは支店だけで行うのに、今回に限っては、支店間で入れ替わりの異動者が出たため、ふたつの支店合同で行っているからだった。
そこの支店長とうちの支店長が同期で仲がいい、というのもひとつの理由かもしれない。
大きな和室を借り切っての歓送迎会は、アルコールの入った営業を中心に盛り上がっていた。
いつもなら、盛り上がりの中心にいる木崎さんは、珍しくまだ酔っていないようだった。
「あの人のは、ただの趣味だって割り切ってますから」
先週、言われたことなのに、もう随分昔のことのように感じるのは、なんでだろう。
樋口さんと給湯室でそのことを話してからまだ一週間しか経たないのに、と不思議になった。
その間、なにか特別な仕事があって忙しかっただとか、そんなこともなかったのに。
「そうか? でもなんか、最近元気ないから。なにかあったか?」
聞かれて、考える。
樋口さんにもそんなようなこと言われたなぁ……と思ったからだ。
でも、考えたところで、別にこれといってなにもないし、目に見えて元気がなかった自覚もない……というか、もともと元気な自覚もない。
もともと元気がさく裂している木崎さんが落ち込んでいたら目立ちもするだろうけれど。
常にローテンションの私が落ち込んでいたところで誰も気づかなそうなものだし、そもそもそこまで落ち込んでもいないのに。