とっくに恋だった―壁越しの片想い―


梨元社長に嫌味を言われた当日に聞いてきた樋口さんはまだしも。

一週間経った今聞いてくるこの人は、いったいなにを感じ取っているんだろうと思い見ていると、木崎さんが言う。

「まとってる雰囲気がいつもと違う」

……スピチュアルだとかそういう話だろうか。

非現実的なものは信じないだけに、そういう話は他の人とどうぞ、と言おうとして、木崎さんのふざけていない瞳に止められる。

「野々宮って、無表情だし、必要最低限の会話しかしたがらないけど、雰囲気自体は軽いんだよ。
あ、軽いっていっても、チャラいだとかそういう軽さじゃなくて。なんつーか……ふわって感じ。柔らかいの。でも今はそれがない」

「……それは、私自身が意識してるものじゃないので、なんとも」

「まぁ、そうだけど。野々宮自身は変わらない? 例えば、仕事の疲れが抜けにくいだとか……ストレス溜まってるとか、気分がどうも切り替えられないだとか」

あー……それなら少しあるかもしれない、と心当たりを見つける。

確かにこの二週間、今までにないような仕事の疲れを感じている。

先週から風邪の疑いをかけてきたけれど、予防として飲んでいる薬が効いているのか、風邪を引きそうな気配は今のところない。

でも、ダルさは継続しているし、これから風邪を引くのか、それとも別の原因なのか……いったい、このダルさはなんなんだと再び思っていたところだった。

先週、樋口さんに、ストレスを上手く逃がさないとーみたいなことを言われたのを思い出し、仕事に対しての鬱々したものが溜まって出てきたんだろうかと片付けていたのだけど……正直、長い。

野菜ジュースだってかかさず飲んでいるし、栄養ドリンクだって今週月曜の朝、初めて飲んで見たっていうのに、ダルさが抜けない。


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