とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「野々宮、仕事の覚えも早いし仕事自体もパパッとこなすもんな。
野々宮本人がそう言うなら多分違うんだろうけど、なんか見てるとどうも自分の気持ちに鈍感っていうかさ、そう見えるからお節介焼きたくなるんだよ」
木崎さんが笑いながらビールを豪快に飲む。
喉がグビグビと音と波を立てるのを眺めながら、そういうえば平沢さんもおいしそうにビールを飲んでたなぁと思い、ハッとした。
ここ二週間で変わったこと。
仕事以外なら、ひとつだけあることを思い出して。
『あまり、近づきすぎないでね』
鳥山さんにそう言われたのが、二週間と少し前。
恋人でもなんでもない、ただの後輩の私がこんな近距離にいるのは確かにおかしいなと思って、平沢さんのご飯の誘いを断り始めたのが……二週間前。
鳥山さんの言うとおりだなと思ったから。
平沢さんはお節介だから、私のことを、まだひとりじゃなにもできない後輩だと思って色々と手を貸してくれたり、ご飯を作ってくれるのだろうけれど。
そんなことをずっとしていたら、平沢さん自身の生活は満たされない。
あの人はもう、二十代も後半に差し掛かるんだし、私の世話を焼いてばかりいないで、誰か特別な人を見つけてふたりで幸せでもなんでも育んでいったほうがよほど有意義だ。
……その邪魔を、私がしているなんていう状況は嫌だった。
現に、平沢さんは私が越してきてから今まで彼女がいた様子はなくて。
それってもしかして私に構いっきりだからだろうか……という考えにいきついたときのショックったらなかった。
知らず知らずに邪魔してたのかって、それもショックだったけれど、なによりショックだったのは、その考えに今まで至らなかった自分だ。