とっくに恋だった―壁越しの片想い―
平沢さんが差し出してくれる優しさに、完全に胡坐をかいて、それに寄りかかって……平沢さんのことなんて考えずに、ただ満たされ甘えていた自分だ。
だから、距離をとろうと思った。
ただの隣人に。ただの、後輩になろうと思った。
別に、そんなたいしたことじゃない。
今までの関係がおかしかったんだし、私だってひとり暮らしを始めたのにいつまでもこんな、自立しきれないのは嫌だ。
そう思ったから……メールした。
『自立した生活を送りたいので、しばらくそういうのは遠慮します。勝手ですみません』って。
平沢さんからは、『自立……うーん。それもそっか……ん、わかった』って。
――『じゃあ、華乃ちゃんが一緒に飯食べてもいいなーって思ったら教えて。俺、華乃ちゃんが望む頻度とかわかんないから、次は華乃ちゃんから誘って』
そんな返事があった。
それが、二週間前のことだ。
そう考えると、ここ二週間の気落ちの理由なんて簡単で……思わず苦笑いがこぼれた。
これは、ただのホームシックだ。
『野々宮、仕事の覚えも早いし仕事自体もパパッとこなすもんな。
野々宮本人がそういうなら多分違うんだろうけど、なんか見てるとどうも自分の気持ちに鈍感っていうかさ、そう見えるからお節介焼きたくなるんだよ』
木崎さんと同じように優しい気持ちで、お節介を乗っけた手を差し伸べ続けてくれた平沢さんから、離れたからだ。
今更気づいた答えに思わず笑うと、木崎さんが「どうした?」と聞いてくるから静かに口を開いた。