とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「あー……最近、あげもの苦手で」
「んー、じゃあなんか頼めよ。やきとりとかは?」
「ちょっと重い気が」
「じゃあデザート系でもいいからさ。カロリーとんないと動けなくなるだろ」
正直、デザートも重たい気はしたけれど、木崎さんの言うことももっともだったから頷く。
チョコケーキをひとつ頼むと、木崎さんもなぜか同じものを注文した。
「やー、なんかメニュー見てたら食いたくなっちゃって」と笑う木崎さんと一緒にチョコケーキを食べてしばらくしたとき、一次会お開きの挨拶が始まった。
男性社員の大半は二次会になだれ込むようだったけれど、女性社員は全員がそこで解散になり、私も「お疲れさまでした」と挨拶をして帰路につく。
結局、私が口にしたのは、最初に出てきたツナとたまごの入ったサラダを少しと、たこ焼きふたつと、チョコケーキ。
でも、お腹が空いているわけでもないし、カロリーでいえばそこそことっているしとくに問題はないだろうと、コンビニに寄ることはせずにアパートに戻ることにした。
駅からアパートまでは、ほとんどが大通りで明るい。
とはいえ、21時を過ぎたこの時間にもなると暗さが勝っていて、人通りも少ない。
駅前のロータリー。
立ち止まってスマホをいじっている男の人の横を通りすぎる。
等間隔にたつ街灯の下を、周囲を少し警戒しつつトボトボと歩き……そのまま数分が経ったころ、なんだか嫌な感じがして、ひとり顔をしかめた。