とっくに恋だった―壁越しの片想い―
『うええ、そんだけで解消されんの? だとしたら野々宮、受け流す能力がずば抜けてるんだと思う。わけてほしいわー』
――違う。
『じゃあよっぽど気持ちの切り替えが上手いとかかもね』
――違う。そんなんじゃない。
私は、仕事で疲れた気持ちを、自分で癒して立ち直らせていたわけじゃない。
ただ、おいしいご飯を食べて充分に眠ったから翌日スッキリした気持ちになれていたわけじゃない。
平沢さんだ。
全部、全部、平沢さんがいたから、平沢さんと過ごした時間があったからだ……。
平沢さんとなんでもない、くだらない話をしたり。
平沢さんの作ってくれたおいしいご飯を一緒に笑って食べたり。ぬくもりのある言葉のやりとりをしていたから……だから、平気だったんだ。
仕事で嫌なことがあっても、なにを言われても、だから、平気だった。
気付けば、簡単なことだった。
平沢さんは、慣れない社会人生活で溜まった愚痴やストレスのはけ口となってくれていた。
私の生活の中には、平沢さんが組み込まれてしまっていたから、平沢さんと会わなくなった二週間でこんなにもボロボロになってしまってたんだ。
しっかり食べることも、しっかり眠ることも、そんな当たり前のことができなくなってしまったんだ。
「……なんだ。とっくに好きだったんじゃない」
気付けば、簡単なことだった。
私は、平沢さんが好きだったんだ。
きっと、ずっと……。
当たり前のようにするっと気持ちの中に入ってきていた平沢さんを。
私はいつの間にか好きになってたんだ。