とっくに恋だった―壁越しの片想い―
「こんなこと、好きでしてるわけじゃない! キミのせいで僕はおかしくなったんだ……っ。責任とってくれてもいいだろう?!」
痛いほどの力を込めて掴まれたままの肩は、まるで骨を直接掴まれているように感じる。
ガクガクと揺すられて、背中がドアにぶつかる。
気付けば、ちょうど私の部屋の前まできていたけれど……この手を振り払い鍵を開けて、自分だけ中に逃げ込むなんてことはできそうもなかった。
部屋になんて入り込まれちゃったら……そう思うと、鍵を開けることもできない。
でも、だからってこのまま通路にいたって、解決する……?
どうすればいいの……?
「こんなに好きなのに……っ、なんで振り向いてくれないんだ?! 僕はキミに告白して振られてからもずっと、キミだけを見て想ってきたのになんで――」
男の人が、私の肩をゆすりながら懇願するような表情を浮かべてそう言いかけたとき。
ガチャッとドアの開く音がした。
私の部屋じゃない。……平沢さんの部屋だ。
咄嗟に視線を向けると、こちらを見た平沢さんは驚きから目を見開き……私を見てから男の人へと視線を移した。
そして、あっという間に走り寄ると、男の人の手を振り払い私を自分の背中に隠す。
ぐいっと強く腕を掴まれたけれど、不思議と痛みは感じなかった。
「今、この子になにしてた?」
初めて聞く、平沢さんの低く攻撃するような声に、身体がすくんだ。
いつもは柔らかく軽く弾むような声が、ビリッと空気を揺らす。