とっくに恋だった―壁越しの片想い―
……ひくわけない。嬉しいし、そんなの私だって寂しかった。
こうして、少し話しただけで、笑顔を見ただけで、気持ちがこぽこぽと温かいものに包まれて満たされていく。
でも。だからこそ。
「彼女がいるくせに、他の女にそんなこと言えちゃうとか。幻滅しました」
鳥山さんを大事にする平沢さんと一緒の時間なんて、過ごせるはずがなかった。
平沢さんが、鳥山さんと付き合うことによって変わっていく部分だとか。
平沢さんの部屋に置かれる、平沢さんの趣味ではないものだとか。
平沢さんの口から出る、鳥山さんのことだとか。
それを、気付いて、見て、聞いて……平気でいられるわけない。
「今日は迷惑かけちゃってすみませんでした。彼女の鳥山さんを、大事にしてください」
なにかを言いたそうで、でもなにも言わない平沢さんに笑みを浮かべてから、部屋に入りドアを閉める。
目を閉じると、最後に見た平沢さんの表情が瞼の裏に浮かぶから、ギュッと奥歯を噛みしめた。
まるで、ショックでも受けたような顔をしていたけど……本当にショックを受けたのは、私のほうだ。
寂しいなんて。物足りないなんて。私のほうが何倍も思ってる。痛感してる。
普通の生活さえ、送れないほどに。