とっくに恋だった―壁越しの片想い―
バタン……と小さく響いた音を聞いて、平沢さんが部屋に戻ったのだと気づく。
玄関のドアを背中にして立ったまま、目を開け、ゆっくりと視線を移し、部屋の右側の壁を眺める。
壁一枚隔てて、そこに、平沢さんがいる。
平沢さんの部屋がある。
その部屋で、これから鳥山さんと色んな時間を過ごしていくんだろう。
私が過ごしたよりもずっとたくさんの時間、鳥山さんは平山さんの部屋で――。
冷たくなった身体。中身。
それでも胸の痛みは麻痺せずしっかり感じるのだから、堪ったもんじゃない。
私はずっと、この痛みを感じながら、この部屋で過ごしていくのだろうか。
まるで、地獄だ。