とっくに恋だった―壁越しの片想い―


「いやー、平沢がさー〝最近華乃ちゃんが全然相手してくれないー〟って酒飲むといっつも愚痴るからさー」

「……え」と、わずかに動揺し声をもらす。
土田さんは、そんな私の様子なんて気にもしない様子で言う。

「いやね、前からね、俺の後輩マジ可愛いーみたいなことは言ってたんだよね。
だから、どんだけ可愛いんだよって、集まるたびにみんなに言われてたんだけどさー……こりゃー可愛いわー。華乃ちゃん、ぶっちゃけ予想以上。もう、まんまお人形さんじゃんー」

そう、土田さんが笑った瞬間。
急に騒がしくなった。

「あー、待てって! 小川、止めて!」「えっ、無理だって。平沢、ガタイいいもん」そんな声が聞こえてきたあと、「どけって!」と、声が聞こえた。

平沢さんの声が。

それを追うように、平沢さんが姿を現す。

スポーツブランドのパーカーに、ジーンズ姿の平沢さんは、私を見るなりホッとしたような表情を浮かべ、こちらに近づいた。

そして、私の前にいた土田さんをぐいっと横に押しのけて私の前に立つ。
やっぱり靴下のまま。

冷たい、冬の空気が、この人が近づくだけであたたかく感じるのは、気のせいだろうか。



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