どこにも行かないで、なんて言えないけれど
黙す恋
今年もクリスマスがやってくる。


あちこちでイルミネーションがきらめき、ツリーが街を彩り、鈴の音が鳴って、特大の照り焼きチキンが食卓を占領する素敵な日だ。

うまくすると雪が降る。


「雪降るかなあ……」


もし降るなら、午後七時から七時半までは降らないで欲しい。真剣に。


碓氷(うすい)さんが来られなくなるのは困る。


碓氷さん。

碓氷お兄ちゃん。

隣のケーキ屋さんの一人息子。


今でこそ碓氷さん呼びだけど、以前は碓氷お兄ちゃんと呼んでいた。


優しくて背が高くて、かっこいい三つ年上の彼を、幼かったわたしが好きになるのは早かった。


好きと言いつつ憧れだった気持ちが、本当の恋に変わったのはいつだっただろう。


なついて、お兄ちゃん、碓氷お兄ちゃんってばかり言っていた時期もあった。


「お兄ちゃんのおよめさんになる」なんて会う度に言ってた記憶も、


……うわー思い出すだに恥ずかしい。


あったんだよね。

あったんだよ。


そんなふうに将来に夢見て、およめさんなんて軽々言えちゃう幸せなときが、あったのだ。
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