どこにも行かないで、なんて言えないけれど
「死にたい……」


未だにそれでからかわれるのだから、つらい。


本人が忘れたい記憶を掘り起こして笑い飛ばすのって、結構鬼の所業だと思う。


わたしは笑い飛ばせないから、真面目にやめて欲しい。


「碓氷お兄ちゃーん、って」

「やーめーてー!」

「真っ赤な顔して好きって言ってくれて、可愛かったなー」

「わああ!? やめて! その記憶抹消してええ!!」


と、なるのがお決まり。


もうね。あれだよね。

可愛かったって、じゃあ今わたしが真面目な顔して好きって言ったら、あなた喜ぶのかっていうね。


喜ばないでしょっていうね。


絶対絶対、眉下げて困った顔してごめんって言うくせに。


「あー、もおお……」


今はもう、お嫁さんなんて、軽々しく言えない。


あのときとは違って――本当に本当に碓氷さんが好きなのに。


本気でサンタさんを信じていたくらいに幼かった自分の、子どもらしい無邪気さを、たまらなく眩しく思い出す。


雪が降らないといい。

碓氷さんが来られなくなるから。


雪が降るといい。

碓氷さんが来た後大雪が降れば、泊まっていってくれるから。
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