バナナの実 【近未来 ハード SF】
以前、酒の席で、真治がニューヨークに長く住んでいた経験があることを知ると、ニューヨークってどんな町ですか?と、辻は尋ねたことがあった。
「芸術の町だね・・・」
彼には、その言葉がとても新鮮に思え、詳しく話を伺ったのだった。
「音楽も絵画もとにかくスゴイ。やっぱり、あったかやって創った曲はスゴイよー」
「”アッタカ”って何ですか?」
「大麻のことだよ」
「知りませんでした。すみません、話、続けてください」
「絵画で、あったかキメた状態で創造するんだもん。それを普通の人が見たら、そりゃ~、スゴイと見えるし聞こえるし、感じるわけだよ」
「へえー」
「ニューヨークは、あったかがわりと手軽に入るから、芸術家はみんなやってるよ」
辻は、知らない世界の話に魅了されていた。
当時、いろいろな経験をしてきた真治は、世間知らずな彼に色々アドバイスし、気さくに会話する間柄に。辻にとっては、頼りになるお兄さん的な存在であった。
「いやー、どうも、どうも、どうも」真治は、満面の笑みを浮かべ、左手で軽く挨拶する。
「お久ぶりです、真治さん」
「しばらく来てなかったねぇ」
「はい、女とポイペットのカジノに行っていました」
「あ~、そう。楽しかった?」
真治は、嬉しそうに少しニヤける。
「えぇ、楽しかったんですけど、最後の晩に事件が起こりまして・・・」と言葉を濁(にご)す。
「なに? 何、どうしたの?」急にハイテンションになって、声の調子を上げた。
「えぇ、あったか吸っていたら、女が急に怒り出しちゃって、それもスゴイ剣幕で・・・」