バナナの実 【近未来 ハード SF】
「それで?」
「カンボジア語がハッキリ理解できなかったんで、何て言われたのかは定かでないんですが、『自分の顔、見てみなさいー!』ってな感じで怒鳴られたんですよ」
辻は、人差し指を突き出し、その場を再現して見せる。
「マジで?」
彼の目は、人事のようにキラキラ輝いていた。
「どうもガンジャと他のケミカルを同一視しているところがあって、『そんなドラックやっている人とは付き合いませんー!』ってな感じで、もう困りましたよー」
辻は、落胆の色を漂わせる。
「それで、今日、その子は来てるの?」
「はあ、さっき話しかけたんですが、やっぱり怒っているようで、目つきが獲物を狙うクロヒョウのようでしたよ。
帰りのバスでは、僕の分の水も買ってきてくれたりして普通に優しかったんですが・・・」
「ウハハハッ、本当に!?」
人の不幸は、蜜(みつ)の味のような笑いだった。
「まぁ、女なんていくらでもいるから、他の娘(こ)でも探したら」
「それがですねー、彼女、結構イイんですよ。他の子と違うんですよねー。まぁ、夜の相性もいいんですが、それ以上に何て言ったら良いかぁ・・・。
あまり人になつかないというか、自由奔放(ほんぽう)といいますかねぇー、そんな素朴な所がイイんです」
「あー、そーう。結構気に入っているんだ」
辻は、正直に「はい」と答えた。
「本気になりそう?」
「本気にはならないと思いますが・・・、どうせ一緒にいるなら、恋愛ごっこみたいのがいいかなぁーと思いまして」