バナナの実 【近未来 ハード SF】
急に彼は、着替えている姿をジマジマと異性に見透かされた恥かしさ覚え、葉っぱで隠すように後ろ髪を掻(か)き、曖昧(あいまい)に答えた。
その後、二人は気さくにビリヤードをして過し、閉店前に真治は帰宅、辻は二軒目のバーにきていた。
プロジェクターで投影された150インチはあろう白いスクリーンでは、ESPN放送による生中継のサッカーヨーロッパリーグの試合が映し出され、それを観戦する数人の若い白人客で盛り上がっている。
その奥で、いつも愛想のイイ顔見知りのトゥイとチームを組み、背が高くおっとりしたスウェーデン人の男性ペア相手にビリヤードをして過していた辻は、そろそろ帰宅しようかと一階に下りた。
時計は、3時半を指していたが、店内には多くの西欧人客がいた。
一階にも、バーカウンターの後ろに丸いハイテーブルと椅子が数セットあり、その横にいつも賑わっているビリヤード台がある。
辻は、誰か知り合いがいないか店内を見回す。
するとカウンター中央で女友達と二人、会話もせず退屈そうに座っているニアンがいた。
お互い目が合うが、目の前で強盗があっても何事もなかったように、彼女は表情一つ変えず視線を戻す。
辻は帰宅をやめ、ビリヤード順番待ちの黒板に名前を書き、彼女とハイテーブル二つ空けた距離をおいて席につく。
気付かれないよう、彼女の仕草を気にする辻。
すぐにビリヤードの順番が来たのでゲームに夢中になっていると、いつの間にかニアンの姿は、タバコの煙と一緒に消えていた。
ゲームを途中でやめ、キュウをその場にいた女性に渡すと、先ほどニアンの隣で見かけた女性に歩み寄る。
「あのー、ニアンの友達? さっき一緒に話してたよね?」
「ニアン? だれ、リンのこと?」
辻は、おもいっきり面を食らった。
「リン? 彼女の名前、リンって言うの?」
彼女がリンと呼んでいるなら、そうなのだろうと思った。
「そうよ、前、同じカラオケバーで働いていたんだから。リンは、私の一番の親友よ」
どこかの市場で店番でもしてそうな格好をしていたが、目のクリッとした20代前半の彼女は、流暢な英語で淡々と答えた。