バナナの実 【近未来 ハード SF】
「彼女は、どんな子なの?」
「ここで、たくさん友達ができたけど、みんなお金ができると性格が変わってね。私みたいな貧乏人には歯牙(しが)もかけなくなったわ。
けど、リンだけは違った。リンは自分がお金をたくさん稼いでも、以前と変わらず私と話すわ。だから、私はリンが好きよ」
他の子と違うと感じたのは、どうやら間違いではなかったらしい。
「そうなんだ。それで、さっきまでいたリンは、どこに行ったの?」
「もう帰ったわ」
帰ったんだ・・・。
「ところで、名前は? 僕はユー。英語のYOUと同じ」
「私は、マニー。よろしく」
マニーは、服装こそ地味だったが、セミロングの髪を普通の黄色い輪ゴムで後に一つ結び、活発そうで典型的なクメール美人だった。
「マニー、ほんと英語上手いね。どこで習ったの?」
「昔、英語教室に半年通ったの。でも授業料が月20ドルもして、途中から通えなくなっちゃたんだ」
公務員の月給が30ドルくらいだと聞くから、異様に高い。きっと、外国人が教えるプライベート教室だったのだろう。
「そうなんだ。でも、それだけ話せたら不自由ないでしょ」
「そうね」
「リンとは、どこで逢ったの?」マニーがはじめて質問する。
辻は、ニアンとの出逢いやガンジャを吸ってトラブったことを真治にも話した通り、ありのまま彼女にも説明した。
それは、誰かに助けを求めているようにも見えなくはなかった。
マニーは、最後まで親身に彼の話を聞いた。
「あんたバカねー。リンは、そういうの嫌いなのよ」
「そんなこと言われたって、知らなかったもん」
「あなた、リンのこと好きなの?」