バナナの実 【近未来 ハード SF】
「うん。リンはいい子だよ。他の子とは、違う何かを持っている。


それに表現は不器用だけど、根はまじめで優しい。そんな所は、すごく好きだな」



真治とは違い、彼女には不思議と本心でいられた。

「・・・」

マニーは、正面のオープンテラスに見える、真夜中の華を咲かせる他の客に顔を向けたまま、それ以上、何も言わなかった。


「マニー、話を聞いてくれてありがとう! 僕は、もう帰るよ。それじゃ、また明日!」

そう言い残した辻は、彼女を後にして店の外の暗闇に消えていった。




翌日、少し遅れた辻が、クラブのホールに顔を出す。

館内は、人が湧いてくる勢いで、すでに男女同じくらいの客で溢れかえり、酒場らしい陽気な音楽と熱気に満ちていた。


ただ、彼一人を除いては。いつもは心地イイはずのレゲエが、今日に限っては、えらく風味の飛んだバサパサなパンのように味気ない音に感じる。


辻は、近くの椅子に一人休んでいたニアンの姿を見つけ、明るく声をかけた。


「ニアン、元気?」


「げんき」

何かを睨(にら)み据(す)えた、不機嫌な低い声が返ってくる。


まだ、怒っているのかぁ・・・。


ディスコの爆音に掻き消されないよう、彼女の耳元に口を近づけ叫ぶように言う。

「昨日、バーでニアンの友達のマニーと会ったよ。マニー、知っている?」

「アウ」


「マニーが、ニアンのこと“リン”って呼んでいたけど、どっちが本当の名前なの?」
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