バナナの実 【近未来 ハード SF】
「どっちでもいいわよ!」と左右に頭を振って、吐き捨てるように声を荒げた。
彼女の長い髪も、一陣の風のように大きく左右に揺れていた。
そっか・・・。
言葉が続かなかった。
何を話したら、どう謝ったらいいのか、そんなことが光をキラキラ反射させるミラーボールのように頭の中でグルグル回っていると、時間だけが無為(むい)に過ぎていく。
こうしていても拉致があかないと思った彼は、「ありがとう」と言い、座る彼女の肩を軽く二度叩くと、そのまま壁沿いにある黒いソファーの隅に腰を下ろした。
周りにいた客の洋服が、青紫のブラックライトの光で部分的に白く発光し、浮き上がって見える。
二、三日もすれば、機嫌も直るかと高をくくっていたが、思いの外、根が深いことにようやく気付く。
そして、もうこの先ずっと仲直りできないかもしれないという不安に陥った。
彼女を目にしているのが辛かった。
話したいのに話せない。
触れたいのに触れられない。
笑顔を見たいのに見られない。
そんな状況がもどかしく、居たたまれなくなった。
辻は、幻想と現実の防音壁を潜(くぐ)り、外のビリヤード台近くのスタンドチェアーに移り、肩を落す。
しばらくして、昨日、知り合ったマニーがクラブに現れ、辻を見つけると隣に座った。
「元気?」肩を落としたような浮かない影を気遣い、マニーが話しかける。
「もう最悪・・・」今日の出来事を、疲れきった表情で彼女に話すと、ここで待ってと言い残し、ニアンのいるダンスフロアーへ消えていった。
10分くらいしてマニーが戻ると、固い面持(おもも)ちで口を開いた。