バナナの実 【近未来 ハード SF】
「『ドラックやる人とは、二度と付き合わないし、話もしない』って・・・」
辻は、余命一ヵ月の癌(がん)と宣告を受けたような胸の痛みが走り、頭の中が真っ白になる。
その後、マニーが言った言葉は、耳に入ってこなかった。
もしかしたら、何も言っていなかったのかもしれない。
力のない声で彼女に礼を言うと、再び子宮のように暗く心地いいはずの幻想の隅を背に、壁にもたれて座った。
大音量が鳴り響いているはずなのに、感じるのは、空気を伝わる外界の低音振動だけ。
そして、赤や、緑の光線が目の前の空間を自在に泳ぎながら進んで行くのが見えていた。
そのうち、色がついた光は磨(みが)き上げられたルビーやエメラルドのようにピカピカ輝きを増し、乱反射する空っぽになってしまった彼の内なる箱には、みるみるうちに貯まってゆくのを感じた。
目に見えないもので満たされた何かが箱からあふれ出すと、現実の世界でも一つの現象となって現れ、こぼれ落ちた。
辻は、その泉がいつか枯れることを知っていた。だから枯れるまで待とうと思った。
しばらくして、マニーが辻の横にスッと腰掛けた。
彼女は、無言のまま隣でただ真直ぐ正面を向いて座っている。
二分が経ち、三分が経ち、マニーが口火を切った。
「泣いてるの?」
「・・・」
辻は正面を向いた顎(あご)を少し上げ、ゆっくり目を閉じ細く微笑する。