バナナの実 【近未来 ハード SF】
辻は、彼がどのようにして成功したのか興味を持ち、その分厚いアルバムに手をかけた。
「どうして海外で会社を起こそうと思ったんですか?」
「敗戦後の日本は、ほんと貧しくてね。アメリカの物や力に憧れがあったね。『いつか自分もアメリカに渡るぞ!』って子供ながらに思っていたもんさあ」
大きな買い物袋を引きずりそうに抱えた家族連れや人々が、三人の座るテーブルの前をひっきりなしに歩く傍ら、アルバムをめくるやすの手は続いた。
「小さい頃、画家を目指していたんだけど、親父が、『画家は金にならん!』って反対してねぇ。『幼い子供の夢をそこまで壊すか』って思ったよ」
「ハッハッハッ!」
辻と松山は、芝居がかかったその言い回しに思わず笑いを飛ばす。
「大学生の頃、自動車レースでF3のドライバーとして走っていたことがあるんだけど・・・」
「F3ドライバーですか? それってものすごい事じゃないですか」
辻は、自動車レースには興味なかったが、そういう世界にいたという話に、なんだかサーキットに立っているかのように熱くなった。
「その時もだよ! 親父が、『そんなものは危ないから止めなさい』って反対してさー。
でも不思議なこともあって。F3の時は、スポンサーを自分で探さなくちゃいけなくて。
企業を周って後援者になって貰(もら)えるよう頼みに行くんだけど、これがなかなか思うようにいかない。
それがある企業を訪問したら、『かしこまりました。お力になりましょう』って言うんだよ。どうも親父が手をまわしたみたいなんだよなあ」
胸に焼かれ、いつまでも色あせないそれら一枚一枚を、彼は、懐かしそに淡い笑みの中で眺めているようであった。