バナナの実 【近未来 ハード SF】
翌日、いつもの時間に起床し、いつものようにカジノへ行く。
夕食を取って帰宅すれば、あっという間に夜は来た。
最近の変化といえば、ニアンに怒鳴られて以来、ガンジャをピタリと止めたことぐらいだった。
昨夜、彼女からの電話の件もあり、合わせる顔がないと思った辻は、いつもとは逆方向にある、滅多(めった)に顔をださないC バーに向かった。
薄暗くだだっ広い店内に足を入ると、数台のスポットライトを浴びているビリヤードテーブルが目を引く。
客は、そこそこ入っているようだ。新入りの顔に見られるのか、遊女たちの視線が痛い。
何人かはいつものナイトクラブやバーで見かける顔もあったが、どうもアウェイーは落ち着かなかった。
中央にある円形カウンターでビールを頼み、辺りに気を配っていると、胸の携帯電話がブルッと二度鳴り止った。
”ニアン”の文字を液晶画面に確認する。
すると、またブルッと一度だけ鳴った振動に驚き、釣った魚が暴れて三度、掌(てのひら)を泳ぐように落としそうになる。
どうやら、電話をしてこいと言うことらしい。
とても彼女と話す気になれなかった辻は、電話の電源を切った。
その後、彼は、バーにいた小柄な女性とビリヤードをして過したが、独り遊園地でも散歩している感じで、全然楽しくない。
辻は、ビリヤードをしたその愛想の良い女性を誘って一緒に帰ることに。
彼女の名前を聞いたが、三歩歩いたら忘れてしまい覚えていなかった。誰でも良かったといえば、そうなのかもしれない。