バナナの実 【近未来 ハード SF】
それは、暗闇に浮かぶマニーだった。
彼は、進めた歩を戻し、渋々彼女と対面する。
「なんで、リンからの電話に出なかったの!」
人形のシルエットのような黒い影からは、高く尖(とが)った言葉が発せられるだけで表情が読み取れない。びよびよ吠(ほ)えるクロ犬のような威圧感が揺れていた。
「何でって・・・。なんで、マニーがそれ知ってるの?」
「リン、バーにいるよ。今日、ずっと一緒にいたんだから。リンが待っているから一緒に来なさい!」
「えっ、ニアンがバーにいるの? なんで?」
絡まった状況が掴(つか)めない辻。
「そうだよ。もう怒ってないから」
「ウソ、もう怒ってないの?」と安堵(あんど)する。
「で、なんで僕がバーに行かなくちゃいけないの?」
マニーの話では、ニアンばかりでなく、日本人の友達も何人かバーで待っているから、迎えに来たという。
「今日は、会えないよ。だって、どんな顔していいか分からないもん。お願い! 明日、会いに行くから、そう伝えて」
子供のような声で駄々(だだ)をこね、神様にでも祈るよう、胸の前で両手を合わせ懇願(こんがん)する。
彼女は断固とした態度で、「ダメ、絶対、今、来なよ!」とだけ強く念を押すと、待たしてあるバイクタクシーで戻っていってしまった。
えらく話が大きくなっていることに困惑したが、このままマニーの言葉を無視するわけにもいかず、支度してバイクにまたがると、ニアンの待つバーへ向かった。