バナナの実 【近未来 ハード SF】
「ニアンが」
すると、二人してクスクス笑出す。
「アモックの意味、知らないの?」
「いいや」
「“バカな男”って言う意味よ」
マニーがそう言うと、二人して抑えていた堰(せき)が決壊したように、一気に爆笑する。
「・・・」言葉にならなかったが、まあ、いいかぁ、と思った。
ニアンが抑揚(よくよう)をつけ、意地悪そうにからかう。
「アー、モック」
そう呼ばれても腹は立たなかった。
むしろ、愛着さえ感じていた。
それ以来、彼のあだ名は、アモックとなった。
独りで宿に帰る途中、辻はたくさんの現地の人に会った。
ジョギングしている人、お店の開店準備をしている人、にわとりを自転車に積んで市場に向かう人。
今まで止まっていた街が、音を立てて動きだす。
いつもの風景が、何故かいつもと違って見えた。
陽は上り、快晴の清々(すがすが)しい青空は、まるで自分の心の中を覗いているようにさえ感じていた。
辻は、どういう経緯でニアンの自分に対する怒りが静まったのか分からなかった。
ただ、マニーが関係していることだけは、間違いない。
そんなことを考えながら眠りについていた。