バナナの実 【近未来 ハード SF】
さらに、数ヵ月が過ぎる。
ウェブ上での議論は、一時盛り上がりを見せたかと思われたが、辻が予想したほどの反響はなかった。
当初、ケータイ小説かブログが、その人気ランキングで上位に入らなければ出版しないと小説シナリオにもあったように、彼の夢は、志半ばにて朽(く)ち果てるかのようだった。
この小説を出版できないなら、映画化できないなら、それでも構わない。
シナリオに描かれた未来が実現しないのには多々理由もあろうが、単に条件が揃わなかったのだろうと。
キーンという耳鳴りがして、突然、聴覚が失われたような感覚になった辻は、高校生の物理の先生が話していた言葉と、未来の自身の姿がまぶたの裏で交錯(こうさく)する。
アインシュタインの相対性理論は、彼が発見しなくとも十数年後には他の誰かによって発見されていただろう、ということを放課後の職員室で聞いたことがあった。
企業としての名前はともかく、その機能としてのユーチューブやアマゾンも同様なのではないか?
それらすべては、条件に対して生まれた結果。
偶然の積み重ねによる必然だったのではないか・・・。
科学の歴史やその積み重ねといったものが、ある日、大きな進歩となって現れ、必然と新しい技術や製品、システムなどができるのだと。
また、それら科学的なものに限らず、音楽や映画といった芸術的分野でも同じなのでは・・・・。
いずれ小説に描かれた未来が実現させるだろう。
インターネットなどの科学的歴史や社会構造の進歩によって、自分ではない他の誰がこの小説シナリオに近い方法で。
二年先か五年先か、そう遠くない未来で・・・。