バナナの実 【近未来 ハード SF】
吸いたいという衝動に駆られることもなかったことから、ガンジャに常習性・依存性がないことを身をもって知った。
だから、もし彼が吸うなら、久しぶりに吸ってもいいかなぁ、と内心思ったのだった。
佐々木は、辻が夕食後に部屋にいるのを見計らい、一枚板から彫られた重たそうなドアの前に立つと、隙間から洩れるチョコレート色の扉を軽くノックした。
すでに一服した佐々木は、いい品を紹介してもらった御礼にと、辻を誘いに来たのだ。
部屋でくつろいでいた辻は、約束などしていなかった佐々木の訪問を、心なしか予想していたように喜びながら、彼の言葉に甘えることにする。
佐々木の部屋で物を見せてもらうと、草が青々しく多少の湿りと粘り気があり、白い粉もふいていた。
品としては上玉だ。
佐々木は、奥のツインベッドの上にひいた大きな新聞紙の上で、茎と葉に分ける。
「これ、種があまりなくていいですよ」
そう言いながらも、手を休めることはない。
続いて彼は、リズラでジョイントを作った。
リズラとは、手でタバコの葉を巻く専用の薄い紙のことである。
「佐々木さん、ジョイントってよく聞くけど、ガンジャとタバコを混ぜたもの以外でもジョイントっていうの?」
「はい、一般には、こうやってリズラで巻かれた物なら、なんでもジョイントすっよ」
「へぇ~、勘違いしてたわ。それにしも、巻くの上手いね」
辻が板についた葉巻職人の手馴れた作業を褒める。
「そっすかー」
「僕は、パイプで吸う方なんで、普段巻かないからそんなに上手くないなあ。タバコの葉を抜いて詰め替えることはするけど。ジョイントだと外でも吸えるからいいよね」
そう言っている間に、のり付けのためリズラの一辺を舌で舐(な)め、また一本巻き上げた。