バナナの実 【近未来 ハード SF】
「佐々木さんは、どう?」
「ボクは、もう出来上がっています。昼間っから吸ってましたから」
全然そうは見えない佐々木は、右腕をベッドの上に立てた片ひざをの上に置き、楽園の秘薬を吸い続けていた。
「佐々木さん、ホント強いねー」
「そっすか?」と気にした様子もなく、あっけらかんと答える。
彼のハイペースに乗りちょっと吸いすぎたと思った辻は、体に変調をきたす。
車酔いした気持ち悪そうな辻の表情を察した佐々木は、「遠慮しないで、ベッドで横になってください」と気を使った。
「カラダがおもいー」と辻は、ベッドに横になる。
体の一部一部のパーツが、普段の二倍重たく感じられた。
体を動かそうにも、手の甲に1キロ、足に5キロの重りがまとわりついている感じで動きが鈍くなる。
白髪混じりのお年寄りが、『歳をとると体が言うことをきかん』と耳にするが、その気持ちが手に取るように理解できた。
辻にとってここまでドーンときたのは、初めてのことだった。
二人は、それぞれのベッドでひじをついて寝そべり、テレビを見ている。
そして、いつの間にか辻は、妙な黒魔術に取り付かれていることに気付く。
まず、テレビのモニターに映ったファッション番組では、同じ場面が何度も繰り返し放送されているかのようだ。
それは、まるで時間の束縛から解放された世界にいるようであった。