バナナの実 【近未来 ハード SF】

辻の瞼(まぶた)に現れた着飾らない彼女の服を一枚一枚剥ぎ取ると、密着する情熱と暖かさを感じて熱にうかされる。


「ガンジャをキメてオナニーしたら、最高に気持ちいイイから。妄想にふけらないとダメだよ」


亮の言葉は、けして辻を裏切らなかった。


一興を終えた辻は、ベッドに戻り時間を確認する。


午後9時15分。


すでに先ほどの時間など覚えていなかったが、時間が進んでいないように感じた。


もし、このまま時間が進まなければ、ニアンに会えないじゃん。


永遠に明日はこないのか?という気にさえ陥ることは容易(たやす)かった。


待てよ、ニアン自体、僕の妄想だったのか?


彼女自体、この世に存在しないのか?

本当にそう思えてくるから不思議だ。今までの記憶に残る過去がすべて、他人によって捏造(ねつぞう)された物の様に、現実と妄想の境が曖昧になっていった。


ニアンに会いたい!

無性に、そう強く願った。


辻は、どうしたら彼女に会えるか考えた末、一つ一つの行動を遡(さかのぼ)れば彼女に会えるという結論に至る。


この時の彼は、時間を遡れないという当たり前の事がすっかり欠落。


遅れて効いてきたガンジャの成分が彼をよりハイにし、自我の暴走を引き起こしていたのだ。

そのため非常識的なことに、なんの疑いも抱くことはなかった。


すると辻は、シャワー室に入り温水を浴びながら再び自慰を始めた。

ニアンのことを思い出しては、過去の記憶と妄想を融合(ゆうごう)させる。


二回戦を終えた辻は、憔悴(しょうすい)しきってベッドに横たわる。
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