バナナの実 【近未来 ハード SF】
絶対に、これでいける。
「俺は金持ちになるんだー!」
そう叫ぶ狂乱の中、網膜にある映像が結ぶ。
それは、カジノで資金100万円から、二年の歳月で10億円まで資産を増やした人がいるというテレビ番組の特集で、世界中の人々から注目を浴びる自身の姿だった。
普段、雲を越えた辻は、自然に地上に降りてくるが、このときばかりは、成層圏を軽く突き抜けてしまうほどのハイになり、自我の抑制を失っていた。
したがって、身勝手な妄想になんら疑問の念がない。
現実と妄想の狭間(はざま)の映像に驚愕(きょうがく)と狂喜の域に達っし、手の指先から足のつま先まで全身が感動に打ちひしがれた。
彼は、そのあまりの衝撃に、この感動を誰かに伝えなきゃ。ガンジャを吸って思いつたこの方法を世に記録する瞬間だと思う。
そこで何を血迷ったか部屋で独り、下着を脱いで全裸に。
一瞬、躊躇(ちゅうちょ)する。
このまま外に出たら、僕はただの変態だ。
外に出るか、止めるか二度躊躇した。
待てよ。世の中、偉大な功績を残した人には、奇病な行動を持つ人も珍しくない。
二年後に10億円稼ぐなら、今晩の事件の真相も明らかになり、みな僕の行動に納得してくれるだろう。
『さぁ、外に出て、みんなに知らせよう!』
そう辻が思ったか、悪魔が囁(ささや)いたのか、彼は、部屋のドアを開け全裸のまま階段をもうスピードで駆け下りる。
気分は、ジェットコースターの最高位から一気に下るようになるがまま、一物(いちもつ)は、左右上下に留まるところを知らず乱舞する。