バナナの実 【近未来 ハード SF】
イスに座る姿勢を変え興味を持った森村が、「どういうジャンルで書くつもりなんですか?」と尋ねる。
「それが、自分でもよく分からないんです。
初めは、自分がカジノで大成功するノンフィクション小説かと思ったんですが、もしカジノで本当に10億円手にすることができるなら、小説なんて書く必要ないと思うんですよ。
カジノで到底実現できるとは思えないし。まだ、試してないので分かりませんが。
すると、カジノで成功する話じゃない気が・・・、もっと内面的な気がするんです。
今のこの葛藤や海外での生活とか、そんな内容の小説じゃないかなぁって。
まぁ、日記でも書くように、少しずつでも書いていこうと思っています」
森村らには、昨夜見て、忘れてしまった夢の話を聞いているような気分だった。
辻は、今後四ヵ月、カジノを試して結果がでなければ帰国し、就職する意思を皆に伝えた。
翌日、テレビ横の机上にノートパソコンを広げ、小説内容を考える辻の手は止まっていた。
現代の最大の娯楽(ごらく)と言ったら、映画だろうなぁ。
ハリウッド映画は、我々の生活に大きな影響を与えているし、産業としての規模も大きい。
大金を稼ぎたいなら、ハリウッド映画の俳優になればいい。
しかし、今の僕にはどう転んでも無理。だから、映画に関わる仕事なら儲かるはずだ。
そう考えた辻は、映画の下地になるものを書こうと決心する。
この日を境に徐々に小説の書けるところから書き始めたのだった。