バナナの実 【近未来 ハード SF】
白人が多いこの辺りのバーやクラブには大抵ビリヤード台があり、男女四人ペアを組んでゲームをしている姿が、辻には、とても楽しそうに映って見えていた。
ビリヤードの基礎も知らなかった彼は、やすに手ほどきを頼んだのだった。
「おう、そこに順番待ちの名前書いときなー」とホワイトボードを指差す。
やすは、このクラブの中では結構上手い方で、大差で店常連のお姉ちゃんを負かした。
「やすさん、上手いですねえ。この棒でどうやってボール突くんですか?」
「キュウね」
「あ、これキュウって言うんですか」
やすは、基本的なことから丁寧に教えた。
「では、俺が割りましょう」
やすが勢いよく手玉を突くと、弾ける音と共に玉がテーブル全体に四散する。
「ストライプがポケットに入ったから、辻ちゃんカラーね」
「こっちの玉を、カラーって呼ぶんですかあ」
辻が打つと“カン”と変に高い音がする。
「初めは上手く打てないかもしれないけど、すぐに打てるようになるよ」
「次は、どれを狙ったらいいんですか?」
「まあ、普通はこれを右コーナーポケットかな」
辻には、どれを狙ったらよいかさえ分からなかったが、以来、彼からよく手ほどきを受け、2周り年の差があるやすからビリヤードなどを通し、いろいろなことを学んでいった。
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