バナナの実 【近未来 ハード SF】
彼は、何があったのか詳しい話を聞いた。
それによると、昨日、ニアンとバーで会った時、『たくさん男と寝て、いつもチョー感じてる淫乱(いんらん)女!』と言われたらしい。
その言葉にマニーが切れ、ニアンとは絶交だと言っているのである。
なんだかややっこしい話になってきたなあと思いながらも、辻はその晩、クラブにいたニアンに問いただした。
「マニーに淫乱女!って言ったんだって?」
だが、話をするなり金剛仁王像のすごい形相(ぎょうそう)で、「わたしをとるの! クマウをとるの! どっち!」と金切り声で迫った。
その他人を威圧するような山おろしにはさすがの彼も驚き、これはかなりきている、と一瞬で悟る。
辺りの客は、ディスコミューシックの熱気に叫びがかき消され、何も無かったように腰と胸を強調した羽使いを雄(おす)に向けている。
「なんだよいきなりー、マニーはただの友達だって。どっちも何も、ニアンを取るに決まってんじゃん」
冷静を装(よそお)い子供をなだめるように諭(さと)すが、すでにタジタジだ。
まさか僕がマニーを好いていると、彼女が勘違いするとは夢にも思ってみなかった。
その場はとりあえず、マニーとは会わないことを約束して切り抜けた。
辻は、マニーをカジノの相棒に選んだこと、そして、彼女を自分の部屋に泊めたことを今更のように後悔した。
彼は、ずっと考えていた。
ニアンとの約束を守れば、マニーは孤立(こりつ)してしまう。
マニーは、いい子である。いつも、僕を助けてくれる。
でも、マニーを守れば、大好きなニアンとは破局だ。
辻は、悩みの渦の中で、一つの限りなく可能性の低い解決策に賭けることにした。