バナナの実 【近未来 ハード SF】
「なに?」
発音が悪いのか、眉間(みけん)にしわを寄せ聞き返すニアン。
辻は、一言一言噛(か)み締めるように言い直す。
「クニョム マン ロープ アーン ニャ ティェティェ」
「クニョム チョン スゥニャ タウ トラウラウ クニァ チムイ マニー ニャ タウ ソムト マニー ・・・」
そこまで読み上げると、熱々の油に水を注いだようにニアンは、すごい勢いで怒り出す。
「もう、マニーとあわないで!」と立ち上がり、力の限り叫んだ。
ニアンをなだめようとするが、すでに聞く耳を持っていない。
ダムが決壊(けっかい)した洪水のように、その怒濤(どとう)の怒りは辻を飲み込んだ。
辻は、ニアンとマニーの関係を修復することはもう不可能なんだと悟った時、己の無意識を、渦巻く濁流の中で見た気がした。
手紙には、ニアンにも会わないと書いてあったが、彼女を前にし、やっぱりニアンとは別れられないと思ってしまったのだ。
「分かったから。もうマニーとは会わない。だから怒らないで」
泥色の水面から顔を覗かせると、彼女をなだめていた。
翌日、マニーとカジノで会った辻は、夕食時、昨日の出来事をすべて話した。
「・・・だから、明日から、もうマニーとは会えない」
辻は、自分の気持ちも込め、正直に伝えた。
すると彼女は、意外なことを訊いてきた。